ミー子

ぉぁああおうぅぅ

Led Zeppelin 'Black Dog' の拍の取り方

'Black Dog'、Led Zeppelin の通称 "Ⅳ" 所収。

私が取り上げるまでもなく、研究が尽くされてる曲に違いない。

でも、当ブログで今まで「Zep のキモは Page の「作曲」にある。リフの造形がすなわち符割の実験である点にある」として、'Dancing Days'(5th. "Houses Of The Holy" 所収)、'For Your Life'(7th. "Presence" 所収)には触れて来た。なら、その実験の最も早い例、しかも最も徹底的な例であるこの曲に触れずに済ますのは、筋が通らない。

 

結論から言うと、この曲の拍を取るのは、じつはシンプルで判りやすい。2つのポイントを押さえれば。

① 終始一貫「4拍子」であること。それをドラム・パートがキープしてること。

② 終始一貫「3拍目がスネア」であること*1

 

この曲は開始からインパクトが絶大だ。ヴォーカルのアカペラに続いて、ギター、ベース、スネアのユニゾンで8分音符5つ「ダダダダダ」からのシンバル。でも初聴でこれの「どこが1拍目のオモテなのか」を解釈できる者はいない。

いっぱんに、初めて聴く曲の、1音目から正しく理解するということは原理的に有り得ない。聴き進むうちに作曲の「手口」「文脈」が見えてきて、以後それに従って聴こえだす。

そうではあるのだけど、殊にこの 'Black Dog' は、わざわざ複雑にしてる「トリッキーのためのトリッキー」と思えなくもない。のちの 'Dancing Days'、'For Your Life' では、もっと「核」だけに磨き上げられたトリッキーがガキンと提示されてて、「この複雑について来られるかな?」的な若気の至りが無い。

(ここに挙げた3曲は共通して「4拍子の中での実験」だ。Zep 曲で最も拍を「取れない」のは 'The Crunge'("Houses Of The Holy" 所収)だが、あれは変拍子であって、一線を越えてしまった別世界だ。)

 

譜面が、諸事情により非常に読みづらくて、済みません。

ヴァース第1要素と第2要素が続けて奏される 0'35~:

シンバルの位置は、第1要素(譜例の第1~5小節)では2拍目オモテ。

第2要素(第6~9小節)では1拍目オモテで、第10小節で第1要素に戻って最初のシンバルも、1拍目オモテ。
第2要素ではギター+ベースは8分音符9個分の長さ単位で反復するので、ドラムの4/4拍子とのポリリズムになる。

 

0'51"~「ブリッジ」は拍を素直に取れるので、採譜をサボらせて頂きます。

 

1'39"~「サビ」のドラム・パートだけ。1小節前のフィルインから:

1拍目オモテが休符なために、2拍目を1拍目と誤認しがち。

最初のシンバルは2拍目オモテ。

 

この曲のスコアはウェブにふつうにあるはずだけど、参照しない。私の採譜とウェブのスコアとで相違があったら、正しいのはウェブのほうです。

 

咄嗟に拍が取れない曲として Yes 'Yours Is No Disgrace' がある。たまたま 'Black Dog' と同時期。

'Black Dog' の「ヴァース第1要素」と「サビ」のシンバルが2拍目なのは、感覚としても「身に馴染む」ことが無いのだけど、楽想の必然とかであるより、「一番無さそうな位置」に入れた、のだろうか?

2拍目が強拍であることや、就中「サビ」で1拍目オモテが休符であることのせいで、2拍目を1拍目と誤認しがち。この点が 'Yours Is No Disgrace' が「1拍目のウラ始まり」なのを連想させる。ただし、時系列として、"The Yes Album" のリリースが1971年2月、'Black Dog' のバッキング・トラックの録音が1970年12月なので、後者が前者に影響されたのではない。プログレ・シーン全体にそういう機運が醸成されてた、のだろうか?

(「トニックの同度を(コードが移り変わっても)連打するベース・パート」が Genesis 'Watcher Of The Skies' と Yes 'And You And I' に共通してて、同時期だけど、同時期すぎて相互の影響は考えられない、みたいなものか。)

 

「サビ」については、拍を「体感として」掴むために、Robert Plant and The Strange Sensation によるアレンジの 1'23"~、3'02"~、4'14"~ が参考になるかも知れない:

 

今回の記事を書く動機になったのは、知人(1960年のお生まれ)から生前伺ったお話。高校生当時なさってたバンドで 'Black Dog' をやり、ドラマーが拍子を取るのに苦労してた、と。

私は、あれっ?と思った。この曲、苦労するのはドラム以外のパートの筈。ドラムがベーシックな4拍子を刻み、他のパートがそこに絡まる。

たしかにトリッキーな曲なので、ギター+ベースのリフで拍子を解釈すると、間違う可能性がある。そしてそれを基準にしてそこにドラムを合わせると、怖ろしくややこしいことになるかも知れない。

1970年代後半ということになる。当時の事情もあっただろうか(バンド・スコアが流布してないとか。流布してるけど拍を取り間違えてるとか。考え得るのは例えば、ギター誌でギター・パートが採譜されてて、でも「バンド・アンサンブルが想定出来てない、ドラムと合わせるのに使える譜面にする気が無い」「拍子をどう取ろうとギター・パートに関しては同じに弾ける、それで事足りる」あるいは「作曲家視点で拍子を分析する気が無い」という料簡のものだった、とか)。

何にせよ、私がこの曲を取り上げることも、あながち「いまさら」ではないかも、と思ったのだった。

拍をどう解釈するかで、この曲の評価が全く別物になる。この曲のどこがキモなのか、それがどのくらい革新的だったのか、が。アルバム "Ⅳ" の Zep 史での位置づけも。どのくらいの名盤と見做すかも。

私は従来、Zep ではⅤ、Ⅵ、Ⅶが好き、と表明して来た。でも、Ⅳこそ、'Black Dog' と 'When The Levee Breaks' が入ってるのだから、決定的に重要な盤に違いない。エポック・メイキングなアイデアの提出という意味でも、そのアイデアの徹底的な実行実現という意味でも。

*1:追記

0'51"~「ブリッジ」はタム回しで、スネアは出て来ないので、「終始一貫」は誤りですね。すみません。

この「ブリッジ」は、拍を取るのに問題が生じない箇所なので、本稿では採譜・分析していません。